佐瀬一弥*、林叔克** ***
東北大学工学部*,東北工業大学**,NPO法人natural science***
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概要: 生物のもつ機能には人工物と共通する性質がある。そこで、人工物についての学問である制御工学によって、ヒトの巧みで多様な運動制御がどのように実現されるかを理解できないかと考えた。本研究の目的は、制御工学の視点からヒトの運動制御を解析し、ヒトを支配する原理を明らかにすることである。
Keywords: 運動制御、倒立振子
ヒトの運動をロボットに行わせるには大変な量の計算が必要である[1]。しかし、ヒトの脳にはコンピュータのように高速な計算は困難である。その原因として、神経伝達速度がミリ秒単位であることがあげられ[2]、少なくともコンピュータと同じ原理では高度な計算は実現できない。
機械の制御では、フィードバック制御という手法が一般的である[3]。これは、制御対象である物理量と目標値の差をとり、その差を入力としてループさせるという方法である。目標値は一定でなくてもよく、目標値を変化させることにより動的な運動が実現できる。一方で、制御対象を計測せずにトップダウン的に運動を行う方法をフィードフォワード制御と呼ぶ。
もし、ヒトの運動がフィードバック制御に支配されているとすると、ヒトは絶えず感覚を研ぎ澄ませて対象の物理量を計測しなければならない。しかし、そのようなことでは疲れてしまう。また、その物理量をフィードバックしてすばやく計算を行う能力もない。
では、ヒトはどのようにして運動制御を実現しているのだろうか。この問いに対して私は物理の手法で挑む。領域代表のことばに、「相対化の考えを使って、新しい現象の理解をすすめることが物理」とある。制御工学はヒトが機械を制御するために構築してきた学問であるが、制御工学の概念には生物にも共通の原理がみられる。例えば、フィードバック制御は生物の温度調整などの恒常性を抽象的に示す概念である。このように人工物の原理とヒト自身を支配する原理に共通点を見出すことで、生物学と異なるアプローチができる。すなわち、人工物の原理を、生物の原理に相対化して理解するということである。私は制御工学の基礎から見直して、機械はどのように制御しているか、それはヒトとどう違うかを考察していくという手法をとる。
制御工学の基礎的な問題に倒立振子の制御がある。倒立振子とは、Fig.1のように台車に振子が固定されたシステムのことである。振子は重力により 方向に自由に回転するので、放っておくと倒れてしまう。目的は、振子が倒れないようにすることであり、我々ができることは台車にかける力 を調整することである。
これはヒトが手のひらの上にほうきをのせて倒れないように手を動かす行為と似ている。そこで、倒立振子の制御における、機械の運動制御とヒトの運動制御を比較し、ヒトの運動制御を制御工学の視点で解析する。
倒立振子の機械による制御の手法を、コンピュータシミュレーションと実際の系を構築して実現する。これによって、機械による制御の特徴を明確にし、ヒトと機械の違いを示す評価基準を定める。

Fig.1 倒立振子のモデル
ヒトによる倒立振子の制御の実験を行う。倒立振子の制御システムでは、力 を入力し、振子の傾き を出力とすることが一般的である。そこで、ヒトの手の加速度と、振子の傾きを測定し、この二つの変数の関係にある法則性を調べる。
また、機械の制御とヒトの制御の違いに着目して、ヒトによる制御を制御工学の視点で考察する。

Fig.2 ヒトによる倒立振子の実験系
Fig.2に示すように、振子を手のひらに乗せて、加速度センサを用いて手の速度を測定する実験を行った。振子の長さは0.6[m]、太さ3[cm]、質量は0.18[kg]の棒状のものを使用した。ここでは、振子の傾きを測定せずに、手の運動の定量化の手法を確立することを目的とした。
現時点では、加速度センサが検出した加速度から重力加速度を除いて、手の加速度のみを抽出することが課題となっている。
また、手や腕の運動には制限をかけなかったため、手の運動はFig.1に示した倒立振子のモデルよりも自由度が高く、手の運動を表現するには手のひらの傾きと3方向の速度を知る必要があった。これらの測定手法も課題となっている。
課題の解決案としては、手の運動を水平な1方向に制限することを考えている。このことにより、加速度センサも並進運動するので重力加速度の方向の変化を無視できるようになり、手の加速度のみを抽出できる。
今後は、手の運動方向の制限する方法と、振子の傾きの測定方法を決定し、ヒトによる倒立振子の実験系を構築していく。
[1]身体知システム論,伊藤宏司,共立出版,2005
[2]Molecular Biology of the Cell,Bruce Alberts, Alexander Johnson, Peter Walter, Julian Lewis, Martin Raff, Keith Roberts, Garland Publishing Inc; 5th Revised edition, 2008
[3]制御工学,西村正太郎,森北出版,1987
| 領域 | 領域代表 | 領域アドバイザー |
|---|---|---|
| 領域1 【物理から生物】 |
沢田康次 (東北工業大学学長) |
武田曉(東京大名誉教授、東北大名誉教授) |
| 領域2 【物理から環境】 |
今村文彦 (東北大学大学院工学研究科 災害制御研究センター) |
湯本良次(東北学院榴ヶ岡高校 副校長) |
| 領域3 【生物から環境】 |
本川達雄 (東京工業大学 生命理工学部) |
菅原研(東北学院大学 准教授)、千葉聡(東北大学大学院生命科学研究科 准教授) |
| 領域1 | アリの行列とバスのダンゴ運転 | ○友枝明保1,2、西成活裕2,3 | 1.明治大学先端数理科学インスティテュート、2.東京大学工学系研究科、3.独立行政法人科学技術振興機構さきがけ |
| ボトルネックにおける人の渋滞軽減方法 | ○栁澤大地1,2、西成活裕1,3 | 1.東京大学大学院工学系研究科、2.(独)日本学術振興会特別研究員DC1、3.(独)科学技術振興機構さきがけ | |
| 視覚情報の遮断によるヒトの視覚運動機構の変化 | ○田村友里恵1,3、林叔克2,3、沢田康次2 | 1.東北学院大学教養学部、2.東北工業大学、3.NPO法人naturalscience | |
| エチゼンクラゲの工業材料への有効利用研究 | 勝然 勇也・三浦 拓也・諏訪 勇麻・阿部 令・佐々木 卓博・鈴木 真・遠藤 雄飛・小野 浩明・東 兼規・山田 有理・伊藤 大将・小川原 佳希・今野 優也・佐々木 祐香・門馬 裕里・山内 透也 | 宮城県石巻工業高等学校 | |
| ヒトの運動制御システムの解析 ~ヒトによる倒立振子の制御~ | ○佐瀬一弥1,3、林叔克2,3 | 1.東北大学工学部、2.東北工業大学、3.NPO法人naturalscience | |
| 領域2 | 津波と地球科学 | 今村文彦,越村俊一,後藤和久,菅原大助,萱場真太郎,高橋潤,橋本貴之,川俣秀樹 | 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター |
| 津波と地球科学―恐竜絶滅の隕石衝突と地球史上最大の津波― | ○後藤和久1、菅原大助2 | 1 . 東北大学大学院工学研究科、 2 . 東北大学大学院理学研究科 | |
| 地層に残る津波の証拠―仙台平野を襲った平安時代の津波― | ○菅原大助1 、今村文彦2 、後藤和久2 | 1.東北大学大学院工学研究科、2.東北大学大学院理学研究科 | |
| 領域3 | 逃げるカタツムリと追いかけるヘビ | ○細将貴 | 東北大学大学院生命科学研究科 |
| 小数の働きアリが示す活動のリズム | ○結城麻衣1,4、菅原研1、林叔克2,4、菊地友則3、辻和希3 | 1.東北学院大学教養学部、2.東北工業大学、3.琉球大学農学部亜熱帯動物学講座、4.NPO法人naturalscience | |
| 女王蟻によるパトロール行動のモデル化とパトロールの最適化問題 | ○八重樫和之1,5、林叔克2,5、菊地友則3、菅原研4、辻和希3 | 1.東北大学工学部、2.東北工業大学、3.琉球大学農学部亜熱帯動物学講座、4.東北学院大学教養学部、5.NPO法人naturalscience |
西澤潤一氏による基調講演
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社会生活から読む近代日本史 |
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