natural science 学会 講演概要

領域2【物理から環境】
津波と地球科学 ―恐竜絶滅の隕石衝突と地球史上最大の津波―

後藤和久
東北大学大学院工学研究科付属災害制御研究センター
仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11
(Tel : +81-22-795-7515; Fax : +81-22-795-7514)
(Email address: kgoto◎tsunami2.civil.tohoku.ac.jp)

概要:約6500万年前に発生した隕石衝突は,恐竜を絶滅させたことでよく知られている.一方,隕石は海洋に衝突したため,巨大津波が発生したと考えられる.現地調査や数値計算結果から,衝突クレーターに海水が流入・流出することにより津波が発生し,最大波高300mもの規模であったと考えられる.

Keywords:白亜紀/第三紀境界,津波堆積物,隕石衝突

I 研究の背景

津波は,主に海洋で地震(地盤変動)が発生することによって生じる.一方,海底地すべり,海底火山噴火,海洋への隕石衝突によっても津波が発生することがある.これらは,地震に伴う津波に比べれば頻度は少ないものの,46億年の地球の歴史の中では,頻繁に起きたと考えられ,地球の歴史を探る重要な痕跡と考えられている.中でも,巨大隕石の海洋への衝突(以下,海洋衝突)によって発生する津波は,発生頻度は低いものの,ひとたび発生すれば桁違いの規模になると考えられる.

海洋衝突の代表例として,約6500万年前の白亜紀/第三紀(K/T)境界での隕石衝突が挙げられる.K/T境界は,恐竜が絶滅したことで知られているが,その原因として考えられているのが直径10kmの隕石衝突である.衝突地点は,メキシコ・ユカタン半島北端と既に特定されており,隕石孔(クレーター)の直径は180kmと推定されている.衝突当時,衝突地点の水深は200m程度だったと考えられているため,衝突に伴い巨大津波が発生した可能性が考えられる.本研究では,衝突地点周辺の地層の調査および数値計算結果を踏まえ,K/T境界で発生した津波の発生メカニズムや規模を議論する.

II 調査方法

本研究では,キューバやメキシコで現地調査を行い,衝突地点周辺の地層を調べた.さらに,衝突クレーター内部の掘削試料を用い,津波の発生メカニズムを調べた.

III 調査結果

キューバでの現地調査の結果,衝突により発生した津波の影響は,水深2000m付近まで及んでいたこと,津波によって攪拌され堆積した土砂の厚さは,100mにも達すること,津波第一波の流れの方向が,衝突クレーターに向かう方向を示すことが明らかになった(図1).

一方,衝突クレーター内部の堆積物を調べた結果,衝突直後に衝突クレーターに海水が流入した痕跡が見られることが明らかになった[1].

図1:キューバのK/T境界津波堆積物
図1:キューバのK/T境界津波堆積物

IV 考察

衝突に伴う津波発生メカニズムとして,①衝突時に発生する水しぶきが外洋に伝播するもの,②衝突に伴い海底地すべりが起き,津波を引き起こすというもの,③海底にできた衝突クレーターに海水が流入し,流出することによって発生するもの,の3種類がある[2].このうち,①で発生する津波は,周期が短いため,大きな津波とはならないことがわかっている.②の場合,衝突クレーターから外洋に向かう方向に第一波が発生するため,キューバでの現地調査結果と矛盾する.衝突クレーター内部に海水が流入した痕跡が見られることを踏まえると,③のメカニズムによって津波が発生した可能性が高い.この場合,数値計算結果を参考にすると,最大300mもの高さの津波が,メキシコ湾岸を襲ったものと考えられる[2].

VI 結論

キューバやメキシコでの現地調査,クレーター内部試料の分析の結果,K/T境界において,衝突クレーター内部に海水が流入し,流出することで津波が発生したものと考えられる.数値計算結果に基づけば,津波波高は最大300mであったと推定される.

参考文献

[1] Goto, K., Tada, R., Tajika, E., Bralower, T.J., Hasegawa, T. and Matsui, T., (2004), Evidence for ocean water invasion into the Chicxulub crater at the Cretaceous/Tertiary boundary. Meteorit. Planet. Sci., 39, 1233-1247.
[2] Matsui, T., Imamura, F., Tajika, E., Nakano, Y. and Fujisawa, Y., (2002), Generation and propagation of a tsunami from the Cretaceous/Tertiary impact event. In Koeberl, C. and Macleod. G., eds., Catastrophic events and mass extinctions: impact and beyond, Spec. Pap. Geol. Soc. Amer., 356, 69-77.

natural science 学会 目次

領域 領域代表 領域アドバイザー
領域1
【物理から生物】
沢田康次
(東北工業大学学長)
武田曉(東京大名誉教授、東北大名誉教授)
領域2
【物理から環境】
今村文彦
(東北大学大学院工学研究科 災害制御研究センター)
湯本良次(東北学院榴ヶ岡高校 副校長)
領域3
【生物から環境】
本川達雄
(東京工業大学 生命理工学部)
菅原研(東北学院大学 准教授)、千葉聡(東北大学大学院生命科学研究科 准教授)

発表題目

領域1 アリの行列とバスのダンゴ運転 ○友枝明保1,2、西成活裕2,3 1.明治大学先端数理科学インスティテュート、2.東京大学工学系研究科、3.独立行政法人科学技術振興機構さきがけ
ボトルネックにおける人の渋滞軽減方法 ○栁澤大地1,2、西成活裕1,3 1.東京大学大学院工学系研究科、2.(独)日本学術振興会特別研究員DC1、3.(独)科学技術振興機構さきがけ
視覚情報の遮断によるヒトの視覚運動機構の変化 ○田村友里恵1,3、林叔克2,3、沢田康次2 1.東北学院大学教養学部、2.東北工業大学、3.NPO法人naturalscience
エチゼンクラゲの工業材料への有効利用研究 勝然 勇也・三浦 拓也・諏訪 勇麻・阿部 令・佐々木 卓博・鈴木 真・遠藤 雄飛・小野 浩明・東 兼規・山田 有理・伊藤 大将・小川原 佳希・今野 優也・佐々木 祐香・門馬 裕里・山内 透也 宮城県石巻工業高等学校
ヒトの運動制御システムの解析 ~ヒトによる倒立振子の制御~ ○佐瀬一弥1,3、林叔克2,3 1.東北大学工学部、2.東北工業大学、3.NPO法人naturalscience
領域2 津波と地球科学 今村文彦,越村俊一,後藤和久,菅原大助,萱場真太郎,高橋潤,橋本貴之,川俣秀樹 東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター
津波と地球科学―恐竜絶滅の隕石衝突と地球史上最大の津波― ○後藤和久1、菅原大助2 1 . 東北大学大学院工学研究科、 2 . 東北大学大学院理学研究科
地層に残る津波の証拠―仙台平野を襲った平安時代の津波― ○菅原大助1 、今村文彦2 、後藤和久2 1.東北大学大学院工学研究科、2.東北大学大学院理学研究科
領域3 逃げるカタツムリと追いかけるヘビ ○細将貴 東北大学大学院生命科学研究科
小数の働きアリが示す活動のリズム ○結城麻衣1,4、菅原研1、林叔克2,4、菊地友則3、辻和希3 1.東北学院大学教養学部、2.東北工業大学、3.琉球大学農学部亜熱帯動物学講座、4.NPO法人naturalscience
女王蟻によるパトロール行動のモデル化とパトロールの最適化問題 ○八重樫和之1,5、林叔克2,5、菊地友則3、菅原研4、辻和希3 1.東北大学工学部、2.東北工業大学、3.琉球大学農学部亜熱帯動物学講座、4.東北学院大学教養学部、5.NPO法人naturalscience

■ 学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2010

2009年の開催報告

■ 学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009

2009年7月5日(日)
サイエンス・フェスティバル


2008年の開催報告

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