後藤和久
東北大学大学院工学研究科付属災害制御研究センター
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概要:約6500万年前に発生した隕石衝突は,恐竜を絶滅させたことでよく知られている.一方,隕石は海洋に衝突したため,巨大津波が発生したと考えられる.現地調査や数値計算結果から,衝突クレーターに海水が流入・流出することにより津波が発生し,最大波高300mもの規模であったと考えられる.
Keywords:白亜紀/第三紀境界,津波堆積物,隕石衝突
津波は,主に海洋で地震(地盤変動)が発生することによって生じる.一方,海底地すべり,海底火山噴火,海洋への隕石衝突によっても津波が発生することがある.これらは,地震に伴う津波に比べれば頻度は少ないものの,46億年の地球の歴史の中では,頻繁に起きたと考えられ,地球の歴史を探る重要な痕跡と考えられている.中でも,巨大隕石の海洋への衝突(以下,海洋衝突)によって発生する津波は,発生頻度は低いものの,ひとたび発生すれば桁違いの規模になると考えられる.
海洋衝突の代表例として,約6500万年前の白亜紀/第三紀(K/T)境界での隕石衝突が挙げられる.K/T境界は,恐竜が絶滅したことで知られているが,その原因として考えられているのが直径10kmの隕石衝突である.衝突地点は,メキシコ・ユカタン半島北端と既に特定されており,隕石孔(クレーター)の直径は180kmと推定されている.衝突当時,衝突地点の水深は200m程度だったと考えられているため,衝突に伴い巨大津波が発生した可能性が考えられる.本研究では,衝突地点周辺の地層の調査および数値計算結果を踏まえ,K/T境界で発生した津波の発生メカニズムや規模を議論する.
本研究では,キューバやメキシコで現地調査を行い,衝突地点周辺の地層を調べた.さらに,衝突クレーター内部の掘削試料を用い,津波の発生メカニズムを調べた.
キューバでの現地調査の結果,衝突により発生した津波の影響は,水深2000m付近まで及んでいたこと,津波によって攪拌され堆積した土砂の厚さは,100mにも達すること,津波第一波の流れの方向が,衝突クレーターに向かう方向を示すことが明らかになった(図1).
一方,衝突クレーター内部の堆積物を調べた結果,衝突直後に衝突クレーターに海水が流入した痕跡が見られることが明らかになった[1].
図1:キューバのK/T境界津波堆積物
衝突に伴う津波発生メカニズムとして,①衝突時に発生する水しぶきが外洋に伝播するもの,②衝突に伴い海底地すべりが起き,津波を引き起こすというもの,③海底にできた衝突クレーターに海水が流入し,流出することによって発生するもの,の3種類がある[2].このうち,①で発生する津波は,周期が短いため,大きな津波とはならないことがわかっている.②の場合,衝突クレーターから外洋に向かう方向に第一波が発生するため,キューバでの現地調査結果と矛盾する.衝突クレーター内部に海水が流入した痕跡が見られることを踏まえると,③のメカニズムによって津波が発生した可能性が高い.この場合,数値計算結果を参考にすると,最大300mもの高さの津波が,メキシコ湾岸を襲ったものと考えられる[2].
キューバやメキシコでの現地調査,クレーター内部試料の分析の結果,K/T境界において,衝突クレーター内部に海水が流入し,流出することで津波が発生したものと考えられる.数値計算結果に基づけば,津波波高は最大300mであったと推定される.
[1] Goto, K., Tada, R., Tajika, E., Bralower, T.J., Hasegawa, T. and Matsui, T., (2004), Evidence for ocean water invasion into the Chicxulub crater at the Cretaceous/Tertiary boundary. Meteorit. Planet. Sci., 39, 1233-1247.
[2] Matsui, T., Imamura, F., Tajika, E., Nakano, Y. and Fujisawa, Y., (2002), Generation and propagation of a tsunami from the Cretaceous/Tertiary impact event. In Koeberl, C. and Macleod. G., eds., Catastrophic events and mass extinctions: impact and beyond, Spec. Pap. Geol. Soc. Amer., 356, 69-77.