今村文彦,越村俊一,後藤和久,菅原大助,萱場真太郎,高橋潤,橋本貴之,川俣秀樹
東北大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター
仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-11
(Tel : 81-22-795-7513; Fax : 81-22-795-7514)
(Email address:Imamura◎tsunami2.civil.tohoku.ac.jp)
概要: 津波は我が国を代表する自然災害であり被害を低減すべき対象である.一方,地球システムの中での自然現象でもあるので,地球を知るヒントを得ることも出来る.このような津波に対して科学技術を融合させながら工学的な立場から研究・教育を進めているのが「津波工学」研究分野であり,世界唯一の機関である.過去を知るために,堆積学分野と融合させ,津波堆積物や石・珊瑚岩の移動についての研究を紹介する.さらに,地震や津波発生直後に被災地把握や被害状況の詳細を知るためのリモートセンシング技術の可能性を検討している.最後は,将来を予測できる技術と言うことで最前線の数値シミュレーション研究を紹介する.
Keywords: Tsunami Engineering, Mitigation, Geology, Remote Sensing, Floating material
「津」という場所で始めて確認できる「波」でであり,沖合では確認出来ないが,沿岸部につれて大きくなる波である.大変不思議な波動である.
このような波は長波(波長や周期の長い)になるが,高潮や潮汐など日常で気象などの原因で発生するものは含まない.地球上で物理現象により生じる波にる.海底での地震だけでなく,火山噴火,地すべり,隕石衝突など様々な要因が存在する.これは未知の部分が多く,各学問分野と連携して解明しなければならない.
基本的に,津波は「水」であるので,これによりもたらされる影響や被害も浸水によるものである.しかしながら,急激な海水等の流入により,我々や住居・インフラが水面下になることにより,被害が発生する.最近の津波現地調査により,我々が思いもよらない被害像も報告されている.
地震の揺れは,大きなものであっても数百km程度で留まるが,津波は海洋を伝幡していくために,影響範囲が膨大になる.1960年チリ沖地震の際には,太平洋の対岸である日本へ,約1万7千kmを伝わって,被害を出したのです.環太平洋沿岸の全域で被害が報告されている.
人的被害の大きさには驚く.2004年インド洋津波では23万人の犠牲者を出した事例は,我々にとってもショックであった.
被災率(人口あたりの死者数)を見ても,2004年インド洋津波,1896年明治三陸津波では,50%を超えるケースもある.集落が全滅した例もあり,津波が「大量殺人鬼」と言われる所以である.

1896年明治三陸津波来襲の様子(風俗画報)

2004年インド洋津波によるスリランカでの被害
波の伝播速度は大変速く,我々の想像以上のスピードにる.津波の伝播速度は,水深と重力加速度の積の平方根で与えられ,深海(4,000m)ほどでは,時速720km(秒速200m)にも達するのである.
沿岸部へ到達すると津波のスピードは急速に低下する.それと同時に,波長が短くなるので,水深5mでは伝播速度がわずか秒速7m程度になり,先端で遅くりますが後ろは以前として早いスピードですので,波長は短くなる.その結果,波高が急激に増加し,大きな津波として沿岸に来襲するのである.
今回は,「津波はかせ」という簡易実験水槽を使って,その様子を見て貰いたい.

津波はかせ の全貌
伝播の様子は大分科学的に解明してきたが,陸上部での挙動や波先端など,未解明な部分もある.

沖合から陸上に遡上する津波
過去を知るためには,歴史書など文字で残されたもの以外にも情報が必要である.我々の住んでいる地域には,この情報が眠っている
津波により陸上へ運搬された土砂は層状に堆積する.これらは「津波堆積物」と呼ばれ,近年,過去に起こった津波の物証として,注目が集まっている.
津波堆積物と年代測定技術を用いることによって,過去に発生した津波がどれくらいの周期でやってきているのかという情報を得る事ができる.さらに,堆積物の分布から,浸水域の推定を行う試みもなされている(Nanayama et al.,2003).津波堆積物から過去に発生した津波の浸水域を推定する方法の概念図をFig.1に示す.まず,海岸線から内陸へ伸びた測線上で掘削を行い,津波堆積物の分布を調べる.津波堆積物が最も内陸側で発見された点まで津波は来襲したと考えられるので,コンピュータを用いた数値シミュレーションを用いて,その点まで浸水するように津波の規模を決定する.しかし,現在のところ,津波堆積物と数値シミュレーションを用いて津波の規模を推定する手法に関しては十分に検討されていない.また,津波堆積物どのように経年変化をするかについてもよくわかっていないません.

津波堆積物から過去に発生した津波の浸水域を推定する方法
2004年に発生したインド洋大津波の来襲があったタイ南西部を対象に,津波堆積物の調査をし,津波堆積物の空間的な分布や,保存状態に関して調べている.堆積物の空間分布と数値シミュレーションを組み合わせる事で,土砂の移動を考慮した数値シミュレーションの確立に役立てる事ができ,同時に,保存状態の変化を追跡する事で,地層中に残された津波堆積物のよりよい理解に役立てられると考えている.
サンゴ礁は海洋生態系の基盤としての生態学的価値や, 漁場や観光資源としての経済価値が高い(Cesar et al., 2003).そのため, サンゴ礁が波浪や赤土の流出, 海水温上昇などによって被害を受けることでの経済的・環境的影響は大きい.台風やサイクロン時の高波によるサンゴの破壊評価モデルとしてMassel and Done (1993)やMadin and Connolly (2006)が挙げられる.一方, サンゴは津波によっても被害を受ける(Chavanich et al., 2008).しかし, 津波によるサンゴ被害を流速や波高などの津波水理量を用いて評価した研究はない.そこで, 本研究ではタイ$\cdot$Similan諸島のSimilan島およびBangu島のサンゴ礁を対象として, サンゴ被害調査データと津波数値計算結果を比較分析することにより, サンゴ被害程度を左右する要因について検討した.この結果を利用すれば,過去の津波の実態を調べるツールともなり得る.
ここでは,インド洋津波によって生じたサンゴ被害の調査データと津波数値計算で算出された結果を比較することで, サンゴ被害の要因について検討した.その結果, 被害率と最大流速との相関が確認され, サンゴ被害の程度を左右する主要因として, 津波流速が強く影響していると考えられることがわかった
広域な津波の影響をいま知るためには,陸上からの確認では限界がある.衛星データなどリモートセンシング技術が注目されている.
2004年に発生したインド洋大津波の被害は沿岸12カ国に波及した.津波発生直後は,被災地からの情報が断片的であったため,死者・行方不明者の合計22万人以上という被害の全容を把握するのに数ヶ月の時間を要した[1].この事例を期に,広域にわたる被害を生む津波災害発生時におけるリモートセンシング技術の有用性が注目されている.巨視的視点から能動的に情報を入手することで被災域を早期に把握し,救命活動や復旧活動の迅速な指針決定に役立てることが期待されている.
ここででは2007年4月に発生したソロモン諸島沖地震に伴う津波被害をモデルケースとし,津波被災前後のソロモン諸島ギゾ島を撮影したQuickBird衛星画像からソフトウェアによる画像処理を行い,植生の変化から浸水域を抽出して現地調査の遡上高分布との比較を行った.また浸水域内で建造物被害の目視判読を行い,現地調査による津波高分布と共にGIS上での可視化を行ったのでここに報告する.
将来を知るためには,過去や現在のデータを使い,それを説明できるモデルが必要である.現在,数値シミュレーションモデルは,複雑な津波挙動を推定・予測できる手法として注目されている.
格子ボルツマン法 (Lattice Boltzmann Method, 以下LBM) とは,分子動力学に基づく数値流体解析手法 (CFD) であり,近年その適用分野は広がりを見せている.海岸工学分野では,浅水理論と等価なLBM により津波陸上溯上解析が試みられているが,長波近似の成立しない流れ場においてはその精度は著しく低下する.そこで本研究では,砕破や街路を走る津波氾濫流など,複雑な流れ場を再現するための数値解法としてのLBMの発展を目指し,自由表面流れを高精度で追跡できるLBMの開発を行うことを目的とする.
本研究では,N-S式に対応したLBMの自由表面追跡アルゴリズムを開発し,典型的なベンチマーク問題である水柱崩壊においてその妥当性を検証する.また,アクリル製実験水槽を用いて,ゲート急開により発生する流れ場の再現実験を実施し,水面形の時間変化について,高速デジタルカメラにより撮影した実験映像を用いてLBMの精度を検証している.
津波の遡上に伴って漂流物が陸上へ流されることにより,沿岸域の被害が拡大する.特に,2004年インド洋津波では,数多くの船舶が市街地内に打ち上げられ,甚大な被害をもたらした.したがって,漂流船舶による津波被害の拡大過程を予測することは,防災対策上きわめて重要となる.
津波による漂流物に関する研究は,これまで多くの事例がある.たとえば,小林ら[1]は浮体の漂流とその位置を逐次算定する計算負荷の少ない簡便な方法を提案している.しかし,船舶の座礁後の挙動を考慮していないことや,局所的かつ複雑な津波の流れ場における浮体の挙動を十分に表現できないという問題が残されている.
本研究は,小林ら[1]のモデルを拡張して上記課題を解決した船舶の漂流解析モデルを開発し,インドネシア・バンダアチェにおける2004年インド洋津波時の漂流船舶の実例を再現することで,本モデルの妥当性を評価することを目指している.
[1] Nanayama,F., Satake,K., Furukawa,K., Shimokawa,K., Atwater, B.F., Shigeno,K. and Yamaki,S. (2003): Usually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril trench, Nature 424, 660-663.
[2] Cesar, H., Burke, L., and Pet-Soede, L. (2003): The economics of worldwide coral reef degradation, WWF and ICRAN, 23p.
[3] Massel, S.R. and Done, T.J. (1993): Effects of cyclone waves on massive coral assemblages on the Great Barrier Reef: meteorology, hydrodynamics and demography. Coral Reefs 12, 153-166.
[4] Madin, J.S. and Connolly, S.R. (2006): Ecological consequences of major hydrodynamic disturbances on coral reefs. Nature 444, 477-480.
[5] Chavanich, S., Viyakarn, V., Sojisuporn, P., Siripong, A. and Menasveta, P. (2008): Patterns of coral damage associated with the 2004 Indian Ocean tsunami at Mu Ko Similan Marine National Park, Thailand. Journal of Natural Histroy 42, 177-187.
[6] 越村俊一 (2007): 巨大津波災害の広域被害評価,第四紀研究 46,499-508.
[7] Thurey, N. (2007): Physically based Animation of Free Surface Flows with the Lattice Boltzmann Method, University of Erlangen-Nuremberg, Ph.D. Thesis, 145p.
[8] 小林英一,越村俊一,久保雅義 (2005): 津波による船舶の漂流に関する基礎研究,関西造船協会論文集 243,49-56.