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【natural science 学会 領域3「生物から環境

natural science 学会 領域3【生物から環境】
少数の働きアリが示す活動のリズム

結城 麻衣1,4,菅原 研1, 林 叔克2,4 菊地 友則3,辻 和希3
1東北学院大学大学院人間情報学研究科人間情報学専攻2東北工大,3琉球大学農学部,4NPO法人natural science
・〒981-3193 仙台市泉区天神沢2-1-1
(Tel/ Fax : 022-773-3306; Email address:s0995104◎ghi.tohoku-gakuin.ac.jp)

概要:アリやハチなどの社会性昆虫と呼ばれる虫は、数百から数万に至る個体数で秩序だった社会を形成してきた。社会性昆虫はフェロモンや触覚の接触で何らかの情報交換を行っているが、どのように秩序だった社会を形成していくのかはまだ分かっていない。本研究では少数の働きアリを使い、軌跡や接触からアリの行動のメカニズムの解明を試みた。その結果、アリの時系列での速度変化を解析したところ、活動が活発な時と不活発が周期的に起きていることがわかった。

Keywords: 社会性昆虫,トゲオオハリアリ.

I. 研究の背景

 生物は変化する環境に適応すべく進化してきた。その進化の中であるものは単細胞、あるものは多細胞に分かれた。さらに単独で生活するもの、集団で生活するものと分かれていき、生物は多様化していった。

生物の中でも、特に昆虫の多様性は幅広く、小規模な脳機能と限られた感覚機能を使い、自然環境に適応してきた。様々な生活体系を構築していく中で、同種の昆虫が複数個体集まってコロニーを築くことにより、環境に適応してきた昆虫がいる。単独で生活する昆虫は数多くいるが、何故そうなる必要性があったのだろうか。また、小規模な脳機能を持つ昆虫が、コロニーをどのように成立させていくのか、そこにはシンプルな行動アルゴリズムがあるのではないかと考えられる。

同種の昆虫が複数個体集まってコロニーを築く昆虫たちを社会性昆虫と呼ぶ。ハチやアリなどがおり、数十から数万、場合によっては数百万の個体で群れをなし、秩序だった社会を形成して生活している。社会性昆虫の注目すべき特徴は、その秩序の形成が、1匹あるいは複数の統治者による集中管理によってではなく、各個体間の局所的なやり取りによって成り立っている。しかし、局所的なやり取りから、どのように秩序だった社会が形成されるのだろうか。今まで多くの研究者が社会性昆虫の仕組みを解明すべく研究を進められてきた。特にアリに関する研究は多く、様々な知見が得られている [1,2]。だが、コロニー全体の行動特性から徐々に部分的に視野を落としておくトップダウン型の研究や、体表物質やフェロモンなどの化学物質レベルの研究がほとんどである。

II. 目的

トップダウン型に対し、単体及び少数個体の行動に注目し、個体数を徐々に増やしていくことで、部分的なところからコロニー全体に視野を広げていくボトムアップ型の研究はあまり行われていない。また、少数個体の行動に着目することで、個体間の振舞いからどのようにコロニーが構成されるか解明できるのではないか。これまでの研究結果から[3]、個体レベルでの行動を観察してみると、単体の場合と複数の場合でその行動は異なることが見受けられた。つまり、行動レベルでの解析からその特性を議論できる余地が十分にあると考えられる。本研究では、ボトムアップ型の方法をとり、障害物のない閉空間に少数の働きアリを放ち、行動を計測する。特にアリの軌跡と移動速度の変化の2点から、アリのコロニーにおける局所的な情報交換の役割を推定していく。

III. 実験手法

本研究では、足の動きや触覚でどこに触ったかなどの個体の動作ではなく、軌跡や速度などの行動に着目する。実験にはトゲオオハリアリ(Diacamma)を使用した。トゲオオハリアリは体長約1cmで、20−300匹でコロニーを構成するが比較的少ない個体数でコロニーそ生成する種になる。個体が大きく解析し易い為、使用した。

1.エタノールで消毒し30分以上放置した、直径30cmの半球型のアクリルボールの中に同じコロニーの働きアリを放つ(fig.1)。アリを識別しやすくするために半球の外側を紙粘土でコーティングした。
2.半球に蓋をして、真上からビデオカメラ(Sony miniDV handycom DCR-TRV9)で録画する。撮影時間は約4〜5時間とする。
3.撮影後、動画像を二値化し、アリの座標を求める。
4.座標から、単一時間のアリの速度を算出する。

 これらの処理は、Ulead VideoStudio 10、LabVIEW、NI Visionにより行った。

Fig.1 実験器具のイメージ
Fig.1 実験器具のイメージ

Ⅳ. 結果

1.速度に関する結果

2個体で行った実験の結果をFig.2に示す。それぞれ速度が変動していて、一定の速度では動いていないことがわかる。また、速度が早いところと遅いところがみられる。速度が0pixel/minなら休んでいるといえるが、この場合わずかながら速度が出ているため、休んでいるとは言い難い。100pixel/min以上なら活発に動いているとしactive、以下ならinactiveとし、速度を活動度の視点から考えていく。

2匹の速度グラフを二値化した活動度のグラフせtをFig.3に示す。このグラフから、2匹が交互に活発−不活発を行っているところが見受けられる。それぞれの活動度のグラフをフーリエ変換してみたところ、それぞれにピークが見られた(Fig.4)。アリ1匹で実験を行った際も、速度変化に周期性が見られた(Fig5)。

Fig.2
Fig.2 アリ2個体の1分毎の移動速度グラフ。赤実線がアリA、青破線がアリBの速度になる。速度が変動し、100分以降はそれぞれ不活発な箇所が見られる。

Fig.3
Fig.3 アリ2個体の100分以降の活動度グラフ。赤実腺がアリA、青破線がアリBで、 100pixel/minを境に、activeが1、inactiveを0とし、二値化した。

Fig.4
Fig.4 アリAとアリBの活動度のフーリエ変換。強度の差はあるが、2匹とも0.064Hz(約15分)にピークが立っている。

Fig.5
Fig.5 アリ1個体の1分毎の移動速度グラフ。2匹と同様で、100分付近から不活発な箇所が見られる。

2.軌跡に関する結果

2個体で実験を行った際の軌跡をFig.7に示す。2個体の軌跡が半球全体を覆っていることがわかる。アリが実験空間内を歩き回ることを、探索しているとする。軌跡の図はそれぞれ半球を覆っているものの、全体の探索が終了しているのか、また、実験時間のすべての時間の軌跡を重ねているので、全空間探索終了したのがいつかはこの図からはわからない。軌跡の図を6×6pixel(約アリ1個体分)のメッシュに区切り、1つでも軌跡があれば、探索完了として、空間探索度について解析した図をFig.8に示す。アリA、アリB共に、ほとんど空間の探索ができている。また、空間の探索完了の時系列グラフをFig.9に示す。100分以降ほぼ数値が変わっていないことから、空間の探索が完了しているといえる。

Fig.7
Fig.7 アリ2匹での0-240分の実験結果。半球全体を歩いているのがわかる

Fig.8
Fig.8 2個体で実験した際のそれぞれの探索度のグラフ。左図がアリAで、右図がアリBになる。部分的には探索できていないが、ほぼ完了しているといえる。

Fig.9
Fig.9 アリ2個体での0−240分の空間探索度。100分以降探索度数が1000を超えていることから、探索が完了している。

Ⅴ. 考察

実験結果から、アリは空間の探索が終わるまでは活発に動き回り、探索終了後は、活発−不活発のリズムで活動すると考えられる。アリ1匹で実験を行っても周期性が見られたことから、それぞれのアリが独自のリズムを持っていると考えられる。開始直後はアリにとっては未知の空間の為、活発に動き回り探索を行い、空間をほぼ探索し終えると、その後の行動は活発不活発を交互に行うと考えられる[Fig.10]。

働きアリは、幼虫の世話や採餌活動、防衛活動など様々な仕事がある[4]。特に、採餌と防衛はコロニーが存続していくためにはもっとも必要なことである。だが、餌の出現や敵の襲来は、不定期に起こる。つまり、アリは外の情報を定期的に得る必要性が出てくる。今回の実験の結果から、活発の時に外に出てパトロールしているのではと考えられる。そうなると、活発な時が外で起きているのか知る必要があり、実験空間をコロニーの中と外界に分けてみていく必要がある。また2個体での結果しかないので、3個体、4個体と個体数を巣やした場合、活動度がどう変わるのか個体間の影響を見なくてはならない。

Fig.10
Fig.10 活動の変化。開始直後とリズムが発生するまでの流れ。

Ⅶ. 今後の予定

実験空間をコロニーの中と外界に分けた時の働きアリの行動の検証を行う予定だ。また、働きアリの速度だけではなく、軌跡や接触などの行動の関連も随時検証していく。その結果から、個体間の相互作用などを考えていく。

参考文献

[1]内川哲哉, 菅原研, 菊地友則, 辻和希, 早坂美徳、「アリの行動の時系列解析とモデリング」電子情報通信学会技術研究報告Vol.106 No.573 NLP2006-147
[2] B.Holldobler,E.O.Willson:蟻の自然史, 朝日新聞社(1997)
[3] Mai Yuki, Y. Hayashi, _K. Sugawara_, "Analysis and Modeling of Diacamma workers' Behavior", Proc. of 14th Int. Symp. on Artificial Life and Robotics (2009) 666-667.
[4] 松本忠夫著:社会性昆虫の生態, 培風館 (1983)

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