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【natural science 学会 領域1「物理から生物

natural science 学会 領域1【物理から生物】
ヒトの運動制御システムの解析

佐瀬一弥*、林叔克** ***
東北大学工学部*,東北工業大学**,NPO法人natural science***
・仙台市青葉区片平二丁目1番1号
(Tel : 022-721-2035; Fax : 022-721-2035)
(Email address:sase◎field-and-network.jp)

概要: 生物のもつ機能には人工物と共通する性質がある。そこで、人工物についての学問である制御工学によって、ヒトの巧みで多様な運動制御がどのように実現されるかを理解できないかと考えた。本研究の目的は、制御工学の視点からヒトの運動制御を解析し、ヒトを支配する原理を明らかにすることである。

Keywords: 運動制御、倒立振子

I. 研究の背景

ヒトの運動をロボットに行わせるには大変な量の計算が必要である[1]。しかし、ヒトの脳にはコンピュータのように高速な計算は困難である。その原因として、神経伝達速度がミリ秒単位であることがあげられ[2]、少なくともコンピュータと同じ原理では高度な計算は実現できない。

機械の制御では、フィードバック制御という手法が一般的である[3]。これは、制御対象である物理量と目標値の差をとり、その差を入力としてループさせるという方法である。目標値は一定でなくてもよく、目標値を変化させることにより動的な運動が実現できる。一方で、制御対象を計測せずにトップダウン的に運動を行う方法をフィードフォワード制御と呼ぶ。

もし、ヒトの運動がフィードバック制御に支配されているとすると、ヒトは絶えず感覚を研ぎ澄ませて対象の物理量を計測しなければならない。しかし、そのようなことでは疲れてしまう。また、その物理量をフィードバックしてすばやく計算を行う能力もない。

では、ヒトはどのようにして運動制御を実現しているのだろうか。この問いに対して私は物理の手法で挑む。領域代表のことばに、「相対化の考えを使って、新しい現象の理解をすすめることが物理」とある。制御工学はヒトが機械を制御するために構築してきた学問であるが、制御工学の概念には生物にも共通の原理がみられる。例えば、フィードバック制御は生物の温度調整などの恒常性を抽象的に示す概念である。このように人工物の原理とヒト自身を支配する原理に共通点を見出すことで、生物学と異なるアプローチができる。すなわち、人工物の原理を、生物の原理に相対化して理解するということである。私は制御工学の基礎から見直して、機械はどのように制御しているか、それはヒトとどう違うかを考察していくという手法をとる。

II. 実験系の構築

制御工学の基礎的な問題に倒立振子の制御がある。倒立振子とは、Fig.1のように台車に振子が固定されたシステムのことである。振子は重力により 方向に自由に回転するので、放っておくと倒れてしまう。目的は、振子が倒れないようにすることであり、我々ができることは台車にかける力 を調整することである。

 これはヒトが手のひらの上にほうきをのせて倒れないように手を動かす行為と似ている。そこで、倒立振子の制御における、機械の運動制御とヒトの運動制御を比較し、ヒトの運動制御を制御工学の視点で解析する。

1. 機械による制御系の構築

 倒立振子の機械による制御の手法を、コンピュータシミュレーションと実際の系を構築して実現する。これによって、機械による制御の特徴を明確にし、ヒトと機械の違いを示す評価基準を定める。

Fig.1 倒立振子のモデル
Fig.1 倒立振子のモデル

2. ヒトによる制御の解析

ヒトによる倒立振子の制御の実験を行う。倒立振子の制御システムでは、力 を入力し、振子の傾き を出力とすることが一般的である。そこで、ヒトの手の加速度と、振子の傾きを測定し、この二つの変数の関係にある法則性を調べる。
また、機械の制御とヒトの制御の違いに着目して、ヒトによる制御を制御工学の視点で考察する。

Fig.2 ヒトによる倒立振子の実験系
Fig.2 ヒトによる倒立振子の実験系

III. 現時点での課題

Fig.2に示すように、振子を手のひらに乗せて、加速度センサを用いて手の速度を測定する実験を行った。振子の長さは0.6[m]、太さ3[cm]、質量は0.18[kg]の棒状のものを使用した。ここでは、振子の傾きを測定せずに、手の運動の定量化の手法を確立することを目的とした。
 現時点では、加速度センサが検出した加速度から重力加速度を除いて、手の加速度のみを抽出することが課題となっている。
また、手や腕の運動には制限をかけなかったため、手の運動はFig.1に示した倒立振子のモデルよりも自由度が高く、手の運動を表現するには手のひらの傾きと3方向の速度を知る必要があった。これらの測定手法も課題となっている。

IV. 課題の解決案

 課題の解決案としては、手の運動を水平な1方向に制限することを考えている。このことにより、加速度センサも並進運動するので重力加速度の方向の変化を無視できるようになり、手の加速度のみを抽出できる。
 今後は、手の運動方向の制限する方法と、振子の傾きの測定方法を決定し、ヒトによる倒立振子の実験系を構築していく。

IV. 参考文献

[1]身体知システム論,伊藤宏司,共立出版,2005
[2]Molecular Biology of the Cell,Bruce Alberts, Alexander Johnson, Peter Walter, Julian Lewis, Martin Raff, Keith Roberts, Garland Publishing Inc; 5th Revised edition, 2008
[3]制御工学,西村正太郎,森北出版,1987

出展プログラム(2009)

基調講演「科学技術と東北」
専門分野の枠にとらわれないニュータイプの学会「natural science 学会」
「科学と社会」意見交換・交流会【特別編】
鼎談「白神山地の今昔-世界遺産の保全のあり方」
地震はなぜ・どうやって起こるの?
社長目線を1日体験しよう!
実践的論理的思考法を体感しよう!
いろいろな空気環境をはかろう!
プログラミング言語「LabVIEW」でトマト栽培を自動化しよう!
①蛍光X線分析を体験しよう! ②見える光、見えない光のダブルで発電しよう! ③999 通りの電子回路をつくろう!
天然鉱物「ゼオライト」の吸着効果を体験しよう!
目に見えない化学反応によって出る光「化学発光」を観察しよう!
「歯がない歯車」のすごさを体験しよう!~磁石ってこんなに力持ち~
携帯電話やゲーム機に使われているCPUに触れてみよう!
実際に体験してみよう!「アイデアの引き出し方」
「ナノ」の世界に行ってみよう!!!
本づくりを体験してみよう!
世界一のセラピー効果を持つロボット「パロ」を体験しよう
塩釜のかまぼこを揚げた使用済みの植物油でエコエネルギーに変身!
立体画像を体験する!空から地形を見てみよう!
磁石と遊ぼう!
①リサイクルゴムでスーパーボールをつくろう!②「すべらない」を体感しよう!
「米ていら」を食べてお米の力を感じよう!
新しいイチゴの品種づくりを体験しよう!
おいしい米づくりの秘密を体験しよう!
日本一、二がいっぱい!!宮城の水産業~宮城の海から食卓へ~
①アルソミトラを飛ばそう!②プラパン焼き③バランスとんぼ
【ベガ号】真昼の天体観測会
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まず観察。そして自分のアイデアを形にしよう!
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